現在、日本において大部分の住宅は、木造/鉄骨造/鉄筋コンクリート造、またはこれらを2つ以上併用した混構造で作られています。それ以外にもレンガやコンクリートブロックなどを積んだ積石造などもありますが、かなり少数になると思います。2000年代前半の調査では戸数ベースで一戸建においては90%以上が木造です。長屋や共同住宅なども含んでも60%以上が木造で、約10%が鉄骨造、残り約20%が鉄筋コンクリート(鉄骨鉄筋コンクリート造を含む)となっているようです。ここでは、代表的な木造/鉄骨造/鉄筋コンクリート造それぞれについて簡単な説明をしていきます。しかし、そもそも構造形式自体にははっきりとした優劣はありません。このあとそれぞれに特徴を書いていきますが、それを踏まえた上であくまでも建物の規模やすまい方、そして設計に応じて適切な構造を選択することが必要だといえると思います。
・木造
木造には大きく分けて、伝統工法と呼ばれる物と在来工法と呼ばれるもの、そして2X4や木軸ラーメン構造と呼ばれるものがあります。まず伝統工法というのはその名のとおり日本家屋が辿ってきた歴史の延長線上にあります。多くの伝統工法で作られた住宅は金物はほとんど使用せず木材を互いに組み合わせて、その柱と梁が主に建物の構造を担います。また壁には小舞という竹を下地に土壁や漆喰を塗ったりと、自然の素材を使用して作られています。一方で2X4というのは、アメリカの2インチ×4インチ材をはじめとする木材の規格の名称で、他にも2X6や2X10などの材料もあります。この2X4は日本では木造枠組壁工法といわれ欧米では標準的な木造住宅の構法です。もともと伝統工法が柱や梁といった軸組で支えるのに対し、これらの木材に構造用合板(構造用のいわゆるベニア板)を面材として打ち付けた壁や床で支えます。この2X4はその名前からもわかるように材木は規格化され、合板を打ち付けるという作り方からも熟練の職人ではなくとも建設できるように工業化、合理化された工法となっています。その他、近年では金物の開発が進みいわゆる木軸ラーメン構造という工法がいくつも生み出されています。ラーメン構造とはドイツ語で「柱・梁」構造のことで、柱と梁で出来たフレームによって構造的に成立するもののことです。一般的には鉄骨造や鉄筋コンクリート造などにおいて使われる言葉で、地震を含めた全ての力が柱と梁の接合部にかかるため、もともと木造では難しい構造でした。しかし金物により木造でもそれを可能にしたのが木軸ラーメン構造といわれるものです。これは柱と梁によって構造体が完結するため窓などの開口部が自由になるのが最大の利点です。たとえば土地が狭い場合などで壁による耐震をしてしまうと窓がとれないような状況では非常に有効になります。しかし一方で特殊な金物を使用するため金物そのものや施工業者に認定が必要なケースが多いのが難点です。
さて、最後に現在でも一番多く建設されている在来工法になります。これは1960年代頃から発達した工法で伝統工法をベースに金物を使用するなどして、ある意味で簡略化した工法といえます。この2つの大きな違いとしては地震の揺れに対する考え方が異なります。伝統工法は金物を使わず地震の揺れを接合部で吸収するような動きをするのに対して、在来工法は接合部に金物を使用しつつ壁を耐震要素と考えて、柱と梁で出来た軸組を斜めに繋ぐ筋交と呼ばれる木材や合板などで地震に抵抗しようという考え方をしています。そのため伝統工法では真壁といって柱や梁などの断面寸法が大きく壁から室内外に露出していたのに対し、在来工法では大壁と呼ばれるように壁の面材で柱などは隠れていることが多くなります。このように書くと、在来工法は伝統工法の流れの中で金物を使用し枠組壁工法のような耐震要素を取り入れて成立しているように見えます。実際、在来工法は60年代に生まれ、改良を重ねながら今日に至っており、その過程でこれらの要素を取り入れてきています。つまり見方によっては不純な構造ということもできますし、日本の現状に一番あった工法ということもできると思います。実際、もともとあった伝統工法という下地に、戦後、材木の加工が規格化されたことや壁などの材料も工業製品となり手作業の塗壁よりも安価になった事、そして金物の製造も簡単になった事が影響として重なりあっています。また建物の形状を考えても、伝統工法の建物の多くは平屋や一部二階建。大規模な物は1階部分に対して小さな2階がある二階建であったり、敷地に対してゆったり建てられている事が多く、建物の形状も含めて地震に対応していましたが、戦後から高度経済成長期に入ると、都市部の土地は極端に不足し、狭い土地に総二階建や三階建などが建ちはじめ、そのような背景の中から在来工法は生まれたため、このような工法になっていったのだと言えると考えられます。このように木造は日本では最も一般的な構造であるが故に、多くの工法が存在し今もなお変化をつづけています。
・鉄骨造
鉄骨造はその名のとおり鉄の骨(H型や角型断面の柱や梁など)を構造体として使用する構造の事です。これらを溶接やボルトなどによって接合し構造体を作ります。この鉄骨造には簡単に分けて軽量鉄骨造と重量鉄骨造と呼ばれるものがあります。一般に厚さ6mm以下の鋼材を使用している物を軽量鉄骨造、それ以上の物を重量鉄骨造と呼んでいます。軽量鉄骨造は一般的に木造と同程度(2階建て程度)の住宅や集合住宅に使用されています。木造に比べて規格化しやすいため、大量に供給する場合に向いています。地震に対しては主にブレースと呼ばれる斜材(木造の筋交と同じもの)で抵抗します。一方で重量鉄骨造は主にラーメン構造とブレース構造があります。ラーメン構造は柱と梁で支持しブレースは必要ありませんが、その分ブレース構造よりも柱や梁の断面寸法が大きくなってしまいます。そこで場合によっては、これらを一つの建物で併用する事も考えられます。例えば幅の狭く細長い敷地で狭い方に開口部を設けたい場合はラーメン構造とし、長い方には開口部がなくても良い壁面が確保できるのでブレース構造というように併用できます。住宅で重量鉄骨造を採用する場合、一般的には3階建以上で木造で設計しにくい場合や、防火地域などで耐火性能を求められた場合が多いと思います。鉄自体、木と比べれば燃えないというイメージがあるとは思いますが、火災の温度では鉄は柔らかくなってしまい構造的に危険があるため、耐火性能をもとめられる場合は耐火被覆と呼ばれる保護が必要になります。また鉄骨造は上記のような3階建以上や耐火性能を求められた場合、初期段階で鉄筋コンクリート造と比較検討することになります。もちろん設計された建物の形状が最も重要な要素ではありますが、それ以外に以下のような違いがあります。まずコストに関してはどちらかというと鉄骨造の方が低めです。もちろん使用する材料などによって左右されますが一般的に同程度の構造体を作るのであれば鉄骨造の方が安価に出来ます。また自重の違いから鉄筋コンクリート造よりも要求される地耐力(地盤の力)が少なくて済むため、仮に杭などが必要になったとしても比較的安価にできます。反対に遮音性やメンテナンスに関しては鉄筋コンクリート造に軍配が上がるケースも多くあります。まあメンテナンスというのは状況によるので一概に言うことはできませんが、基本的に鉄骨造は構造体と内外装が完全に別物になっているため部材数が多く、長期的にみるとそれらのいずれかが問題の種になる場合があるということです。
・鉄筋コンクリート造
鉄筋コンクリート造は稀に鉄骨造と混同されている方もいますが、全く異なった物です。鉄骨造が文字通り鉄の骨ということは前述しましたが、鉄筋コンクリートもそのまま鉄の筋とコンクリートで出来ています。もう少し詳しく言うと鉄筋という鉄の棒で編んだ網をコンクリートで覆い、圧縮力(押される力)はコンクリートが負担し、引張力(引っ張られる力)は鉄筋が負担しています。また、コンクリートはアルカリ性のため鉄筋を錆から守りつつ、火災からも守っています。作り方としては、まず鉄筋を組み、その周りに型枠という型を作ります。この型枠はプリンを作るときの型のような物で合板などの木材や鉄板などでつくります。そこにコンクリートを注ぎ込み固まったらバラして完成です。このようにイメージすると鉄骨造との違いがわかりやすいと思います。さて、鉄筋コンクリート造にも一般的なものとしてはラーメン構造と壁式構造の2種類があります。ラーメン構造は柱と梁で支持するもの、壁構造は壁と床によって支持するものです。これもラーメン構造の方が開口部は自由になりますが、室内に柱や梁が出っ張ってしまいます。反対に壁構造は構造的にある程度の壁面をバランスよく配置する必要があります。
もう一つ、鉄筋コンクリート造には他にはない特徴として「打ち放し」というものがあります。これはコンクリートの型枠を外した状態で仕上げとする方法で(撥水材などを使用する場合もありますが)近代以降、建築家が好んで使う代表的な手法となっています。これは主に、型枠を外した段階で仕上がりが決まってしまうという潔さ、ごまかしの無い表現という点や、型枠に使う材料をそのまま写し取って出来上がってしまうという造形的な面白さ、力強さや禁欲的な表現などが好まれている理由だと思います。ただし、打ち放しには断熱がしにくいという弱点が挙げられます。特に内外の壁を打ち放しということになると、断熱材を入れることがむずか(絶対に出来ないという事は無いですがかなりの費用がかかります)なので、一般的には断熱しようとすれば内外どちらかの壁は何かで仕上げなければならないことになります。
さて、これらの代表的な3種類の構造について触れてきましたが、最初に書いたとおりこれらにはっきりとした優劣はありません。基本的には求めるすまいによって最適な構造を選択できるのが好ましいと思います。ただハウスメーカーや工務店は大抵、効率化のために最初から選択肢を絞った上で住宅を作っていることが多いですし、建築家にも多かれ少なかれ得手不得手はあります。そして何よりも大切なのが、求める住宅や土地条件等によって最適な構造は異なるということです。なのでやはり構造ありきではなく、まずはよく話をしてみるのが大切だと思います。